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小学校からの幼馴染によると、とくに中学のとき世話になった新代田の文具屋さんが閉店したらしい。僕の記憶では40年以上前から続いていた商売を閉めるようだ。時代の流れには逆らえないのだろう。 井の頭線の新代田といってもマイナーな駅なので、知らない方がほとんどだと思うけど、僕や仲間にとっては育った地元でもある。 環状七号線の下に井の頭線の駅はあり、ホームから上がった改札の前はいきなり環七の往来だから、いつもスモッグで煙っていて、商店街といえるものはごく少ない。となりが下北沢なので、地元の人はほとんどがシモキタまで買い物に行く。そんな環境だから、商店も発達しないのだ。 中学の同級生にK太という面白いやつがいて、同じ野球部でしごかれた。彼はいまでも親友同士である。K太の家は新代田駅前というか駅横で中華そば屋を営んでいた。厨房に立つのは彼の亡くなったお父さん、そしてあまり程度のよくない丁稚からたたき上げの、使用人のノブさんというおっさんが働いていた。ノブさんは主に出前を任されていて、たまにお父さんがいないときは調理もしていた。 ある日、中学の野球練習を終えてK太の家に遊びに行く途中、環七の歩道で信号待ちしていると、反対側に丁稚のノブさんの姿が見えた。出前に使うオカモチという、届ける料理を入れるアルミでできた箱の上に腰掛けタバコを吹かしている。なんというか、余裕の表情を浮かべている。 信号が変わり僕が反対側に渡り終えても、ノブさんは座ったままタバコを吸い続けていた。早くいかないと出前物が冷めちゃうと思って声をかけた。 「ノブさんこんちはっす。信号変わりましたよ。出前、行かないんっすか?」 「まだいいんだよ。ソバ大盛りにしてやってっからよ。サービス、サービス!」 「????」 純情な僕は一瞬ノブさんがなにを言ってるかわからなかったが、タバコを吸い終わる頃には麺がスープを吸って伸びて大盛りになるという意味である。 信号がついに青に変わると、ノブさんは重そうに腰をあげ、ヒョコタンとぎこちなさそうに歩きながら、オカモチをわざとらしく重そうに抱えて歩道を渡って行った。届け先は、すぐ先の文房具屋さんだった。 今から40年近くもむかしの思い出である。
by bob_jones
| 2008-11-06 21:31
| 中学2年E組
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